制御盤の筐体・ボックスとは?種類や使用環境ついてご紹介
筐体(きょうたい)とは、電機機器や機械などを収めている箱(ボックス)のことを指します。用途に合わせて様々な形状があり、使用する素材も多様です。使用環境が厳しい場合も多いため、筐体を製作する際には加工性や価格だけではなく、耐久性も重要となります。
ここでは制御盤の外観となる筐体について解説します。
目次
1. 制御盤の筐体(きょうたい)とは
制御盤の配電機器や制御機器など様々な電気機器を収納するための箱(ボックス)を指し、一般的に金属の骨組みにアクリルの板などを取り付けて作られています。「エンクロージャー」や「キャビネット」などと呼ばれることもあります。
筐体の前面の扉には、様々な形状の穴が開けられており、スイッチやモニターなどが取り付けられ、冷却ファンなどは側面に設置されています。
筐体は安全面において非常に大切です。制御盤に使用する筐体は基本的にアースに接続されており、筐体内で発生した漏電から使用者を保護します。また、熱やオイルミスト、化学物質、ちり、液体などに弱い機器類を保護する役割も担っており、筐体が無ければ制御盤は様々なリスクにさらされることになると共に、安全性も低くなります。
また、筐体には各機器類を守るため、様々な性能が付与されています。耐腐食性は、空気中に多量の化学物質や有機物を含んだ環境や、高温多湿になる環境など、金属が錆びやすい環境で必須の性能です。また、熱対策は高温に弱い電子機器類を保護するために無くてはならず、直射日光にさらされる場所では特に必要な対策となります。
2. 使用される材質
筐体に使用される素材は、価格と機能を考慮して選ばれます。安い制御盤を作ろうとすると最も安い板を使えばいいですが、ただ安いばかりで耐腐食性や強度が低ければ、すぐに錆びついてしまい、内部の機器類にまで被害を及ぼします。また、変形しやすいので故障のリスクが高まります。
一方、高価な板は耐腐食性が高いですが、多用すると制御盤の値段も高くなってしまいます。使用環境をよく吟味した上で、コスト面も耐久面も見合った板を選択する必要があります。
板の素材には鉄鋼がよく用いられます。安価で耐久性も高いですが、鉄なので錆びやすく、耐腐食性が低いため、耐腐食性を得るために表面塗装やメッキ処理をして用いられます。種類としては、SPCC(冷間圧延鋼板)、SPHC(熱間圧延鋼板)、SECC(電気亜鉛メッキ鋼板)、SUS(ステンレス板)、SGCC(溶融亜鉛メッキ鋼板)などがよく使用されます。
耐腐食性が高い素材として知られるのがステンレス鋼板です。非常に錆びにくく加工もしやすいため、制御盤に限らず様々な用途に使用されています。海の近くなど塩害が発生する場所など過酷な環境で使用される、信頼性の高い素材です。オーステナイト系のSUS304やフェライト系のSUS430がよく用いられています。SUS304は耐腐食性が高いですが、SUS430に比べて高価です。
その他、小さな制御盤を製作する場合にはアルミ板を使用することもあります。アルミは軽いですが強度が弱く曲がりやすい欠点があるため、大型の筐体に向いていません。しかし、コントロールボックスなど小型の制御盤を作るには十分な強度で、なおかつ加工もしやすいのでよく用いられています。
アルミの酸化物は耐腐食性が高いことが知られており、表面に酸化膜を作るアルマイト処理をしたものを使用すると、耐腐食性の高い筐体ができます。アルミ板にはA5052PやA1100Pがあります。
3. 筐体の構造について
筐体の構造は制御盤の耐久性を決める上で大切な要素です。高温になる場所に置くのに熱対策をしない、風雨にさらされるのに防水・防塵対策をしない、腐食性の環境にあるのに耐食性が低い、このような制御盤はいくら中身の性能が高くても故障のリスクが高い制御盤になってしまいます。
3.1. 屋内に設置する場合
屋内で使用する場合は直射日光や風雨にさらされる心配は少なく、空調により温度や湿度管理されている場合がほとんどです。一方、工場によってはオイルミストやちりが多いなど、制御盤にとっては過酷な環境もあります。
そのため、使用環境ごとに板の素材や表面処理を検討し、防塵対策をしっかりと施した上で、常に高温になる環境では制御盤クーラーを設置して冷却するなどの配慮が必要です。
3.2. 屋外に設置する場合
屋外は雨が降るため、基本的にパッキンなどによる防水対策をしっかりと施します。屋内では筐体に空いた穴はシーリングまではされませんが、屋外だと雨水やちりが内部に侵入してしまうため、筐体に空いた穴はシリコンなどでシーリングし、雨水やちりが侵入しない構造にします。
これらの防塵性能や防水性能には、IP保護等級と言う国際規格があります。IP保護等級に準拠し認証を得た制御盤には、防塵や防水の性能に応じてIP番号が記載されています。
4. 用途による分類について
筐体の用途は汎用と専用に分かれます。汎用は大量生産するため価格は安いですが、サイズや素材、塗装が決まっています。一方で、汎用では対応できない場合、専用の筐体が設計・製造されます。
4.1. 汎用
汎用とは、一つの用途のみでなく様々な用途で使用できるものを指します。汎用の筐体は基本的に単純な形状やサイズになっており、安価な一方、使用目的に対して寸法が合わなかったり、穴が小さかったりと、使い勝手は必ずしもいいとは言えません。
しかし、小型の配電盤など使用目的によっては安価な汎用筐体で十分な場合も多いのでよく使用されています。
4.2. 専用
制御盤は、複雑な制御が必要になればなるほど、専用のものを作る必要が出てきます。特に、工作機械や生産システムを制御するための制御盤は、そのシステム専用に設計する必要があります。そのような制御盤は、生産工場、化学工場、食品工場など、多くの分野で使用されています。
このような複雑な機械を制御するには、多くの機器類を使用しつつ、機器類の配置も考えなければなりません。また、冷却システム、ボタン類、モニターなども、それぞれの機械専用の筐体を使用し、環境なども考慮しながら配置します。
5. 三笠精機での筐体に対応した事例
三笠精機ではこれまで、様々な制御盤用の筐体を製作して参りました。ここからは、その筐体製作事例をご紹介します。
● 屋外用筐体
以前、ガス施設の温度調節設備を格納する屋外用の筐体を製作しました。地面に直置きせずに架台で支え、上部の筐体はステンレスを、筐体を支える架台には鉄鋼を用いてコストダウン。素材は異なりますが、塗装により素材の違いが分からないように仕上げました。
屋外での使用を念頭に、筐体の両サイドには、筐体内部の熱対策としてルーバーベンチレーターを設置しています。内部の熱の逃げ道ができることで、筐体内の温度が上がりにくくなっています。ベンチレーターは複雑な形状のため、型で抜いて作ると高額になってしまいますが、コストダウンのため既製品のものを使用しています。
雨水対策も万全です。一枚板のステンレスから可能な限り継ぎ目がないように加工しており、雨漏りには非常に強い作りとなっています。
また、筐体は温度管理用の箱でもあり、筐体内部には多くの温度計が設置されています。温度計や機器類は各種ブラケットに取り付けられており、筐体内にバランスよく配置されています。
さらに、筐体の内張には断熱材を隙間なく敷き詰め、熟練の職人が専用の道具を使い継ぎ目を養生しています。この筐体の製作に要した期間は、図面受領後12日でした。
● オーダーメイド筐体
ある機関から、実験用のユニットを格納するためにオーダーメイドの筐体を製作して欲しいとのご依頼がありました。実験ユニットは、アンプや計測器、プリンタなどから構成されており、このユニットを使用者が使いやすいように配置し、さらに操作ミスが起こりにくいようにするのが目標です。
お客様からご依頼を頂いた際、イメージとしては、エクセルのスケッチ程度のラフな図しかありませんでした。しかし、三笠精機の設計者が直接お客様とお話しすることで次第にイメージを具体化。やがてお客様と設計者のイメージが一致し、依頼されたイメージを丁寧に図面化しました。
お客様によっては3DCADで設計図面を製作している場合もありますが、ラフスケッチの場合も少なくありません。しかし、ラフスケッチでは、完成品の寸法がおかしいなどの事態が起こる可能性もあります。
三笠精機では、このようなリスクを把握した上で、ラフスケッチからでも、お客様のご要望と用途、使用機器などをしっかりとヒアリングした上で、ミスが無いように細心の注意を払い設計を行います。
今回の筐体は実験用で、筐体の上部にアクリル製の窓を付けており、計器の数値の確認や実験の状態をより観察しやすいように工夫しています。扉は表側だけでなく裏側にも設置し、計器やサンプルの取り外しや設置が行いやすいように工夫し、ユーティリティー性を向上させました。
また、お客様のご要望によりキャスターを設置し、施設内の移動を容易にすると共に、実験中には筐体が動かないようジャッキボルトでしっかりと固定できるように施工しています。
設計完了後、実際に筐体を製作し、完成品を納品。お客様には非常にご満足いただけました。
この筐体の製作に要した期間は、ラフスケッチから12日。筐体は実験用のユニットを格納するための世界で一台のオーダーメイド品です。三笠精機では、既製品では存在しない形状や、鉄とアクリルを使用した筐体製作も行っています。
6. まとめ
筐体とは、機器類が収められた箱(ボックス)のことを指します。使用する素材は様々で、汎用的な筐体もあれば、用途に応じて設計がカスタマイズされる場合もあります。
三笠精機では、制御盤のみならず、様々な用途の筐体の設計・製造を行っております。筐体のみの製作をご希望の場合も、ぜひご遠慮なく三笠精機へお問い合わせください。
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