制御盤 海外規格 UL規格対応

標準仕様確定と北米規格への適応
同時実現の鍵はコミュニケーションにあり

滋賀県 株式会社タイトウトレーディング
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今回紹介するのは、中国と国内の二拠点を活かし成長を続けてきた装置メーカーの北米規格適合までのストーリー。多くの大手企業が参画するプロジェクトをどう成功に導いたのか。規格への適合をスピーディーに実現する鍵について、関係者に話を聞いた。

「中国市場に強い企業」が初めて北米規格に挑む

株式会社タイトウトレーディングは滋賀県に拠点を置く装置メーカー。泰東機械(上海)有限公司とともに泰東グループとして、「日本」「中国」二つの拠点を活かした事業を展開している。2000年の創業当初は中国で安価に製品を製造し日本国内や海外へ輸出してきたが、10年程前からは国内拠点の拡充に力を入れている。

取締役社長の堀 英智氏は「草津市に拠点を移し工場機能を拡充してきました。設計をはじめとしたモノ作りを担う部隊を配し、国内メーカーの要望に応じ納品まで一貫して行える体制を構築したのです」と話す。創業当時のビジネスモデルを維持するのは難しくなったものの、現在は中国の工場で製造した部品・装置を日本の工場で完成品に仕上げ、お客様の所に届けることで業績を伸ばし続けているのだ。

液晶や半導体、EV電池など産業に欠かせない部品を製造する設備や装置は、変わらず日本企業が高いシェアを誇る。中国をはじめ世界各地の工場に日本の製造設備・装置は納品され続け、「パイロットラインは国内、量産設備は海外」というケースも多い。

これらを背景に「国内で固めた仕様をもとに同じものを中国で製造できる。二拠点の強みが今でも活かされている」(堀氏)というわけだ。

得意分野を持つプロが集まり、手探りで正解を探してく日々

さらにここ数年はさらにここ数年は米中貿易摩擦を背景に「海外との取引のなかで、タイトウトレーディングがフロントに立つシーンが増えてきた」(掘氏)。米国への高まる投資熱も追い風となっている。アメリカは「インフレ抑制法(IRA)」で北米生産の車のみEV税額控除の対象とするなど、国をあげて国内製造業をバックアップしている。他にも工場を立ち上げる外資系企業へインセンティブを与えるなどの施策もあり、米国に製造設備・装置を納品するケースが増加しているのだ。

今回同社が担った「EV充電池の製造装置の製作」プロジェクトの背景にもこの潮流がある。一方で、急速な需要拡大に現場が追いついていないのも実情だ。同社の技術部設計Gr課長の稲葉恒介氏も「当社は装置そのものの知見は持つものの、北米仕様への対応は初めての経験だった」と振り返る。

「すでにパイロットラインを日本で構築し、中国で増産体制を立ち上げ済みでした。一方北米向けとなると、例えばどこまで安全基準を満たすべきかなど、基本的な道筋の見当もつかなかったんです」(稲葉氏)。

プロジェクトには、同社を含め得意分野を持つ数多くのメーカーが参画していた。しかし、北米規格に関する豊富な知識と経験を持つ企業はおらず、当初は手探りで進めざるを得なかったという。そこで白羽の矢が立ったのが、数多くの装置の北米規格適合を手がけてきた三笠精機だ。

米国規格は「とにかく要求がわかりにくく、複雑」

米国規格は複雑なことで知られている。例えばEUでは統一された規格があり、適合されていることを示す「CEマーキング」の適合性評価や各種試験の方法も全て公開されている。メーカーはそれに沿った対応をし、自ら「基準を満たしている」と宣言すれば完了だ。

一方の米国は数多くの民間規格があり、認証に関わるのも複数の民間機関である。プロジェクトに参画した三笠精機技術営業部設計課 EPLANスペシャリスト UL508A-MTR セーフティサブアセッサの三島佑也も、「装置への要求はわかりにくく、何をすれば良いのかはっきりしないケースが非常に多い」と話す。「日々の経験と積み重ねで見えてくることも多く、私たちもノウハウのブラッシュアップを続けています。お客様のなかには自社対応を試みたのち、当社にご連絡を頂くケースもあります」(三島)。

「多数の関係者とスムーズに連携する」 その秘訣とは?

折しもプロジェクト期間中、発注元企業の組織改編の影響で装置の仕様変更が生じる。つまり標準仕様を固めつつ、それを追いかけるかたちで北米向けの対応を行うこととなったのだ。

「結果的にですが納期が短くなり、仕様の確定を多くの関係者とともにスピーディーに実施することが必須となる」(稲葉氏)なか、タイトウトレーディングと三笠精機は装置の適合をスムーズに進めるべく細かくも様々な工夫を取り入れる。

例えば情報共有の効率化を目的に、関係者全員が集まるミーティングを定期的に開催。一方でコアメンバーは絞り、メンバー全員が常に参加できる仕組みを整えた。「全体の流れについて共通の理解があれば、資料も簡略化できます。小さなことですが、結果、文書作成の時間と情報を待つ時間を削減できました」(稲葉氏)。

「審査で指摘された事項は遡及する必要があるなど、とにかく対応することが多かったのが印象に残りました」と稲葉氏は振り返る。「それでも、私たちが強みを持つ装置そのものの設計と製造に多くのリソースを投下できたのは、三笠精機さんがやるべきことを整理し提示してくれたおかげです」(稲葉氏)。

「できることには限りがある。積極的に協業したい」

現在プロジェクトは最終段階に入っている。「動作確認も複数回実施済みで、かなり固まってきています。あと一息ですね」と稲葉氏は話す。数多くの企業が集い、未経験である北米規格への適合を成し遂げた今回のプロジェクト。堀氏は、「決めかねていたUL508Aへの適合は三笠精機さんの見立て通りになりました。規格への適合もクリアしたうえで、発注元企業の仕様にもあうかたちに落ち着きました」と振り返る。

設計部門は3名所属(中国工場には、約20名の設計担当が所属している)。稲葉氏が中心となり、三笠精機とともにプロジェクトをけん引した。

米国市場の活況はしばらく続くと言われている。泰東グループも、北米を中心とした海外への投資に関わる機会が増えると見込んでいる。同社は「今は多くの国内企業が当地への投資を行うタイミング。新たな分野、取引先を開拓していきたい」(堀氏)とする。

その一方で「一社でできることには限りがある」との認識も示す。「『餅は餅屋』で、三笠精機さんのような強みを持つ企業と連携しつつ、新たなことにも挑戦していきたい」(堀氏)。

滋賀県草津市のタイトウトレーディング工場。この拠点には設計部門の社員も在籍しており、設計から納品まで一貫して担えるのが強みだ。

「当社はいわゆるパッケージ化された装置がなく、今までもこれからもお客様のご要望に柔軟に対応していくのが基本的な考え方です。世界情勢の変化に伴い、当社の市場も大きく変わるでしょう。しかし、そもそも規制、制限にフィットさせてきたのが泰東グループの歴史なんです」と堀氏は話す。

上海市に位置する泰東機械(上海)有限公司。タイトウトレーディングとともに年々規模が拡大しているという。

中国市場への理解という強みを活かしつつ、持ち前の柔軟さで四半世紀成長を続けてきたタイトウトレーディングと泰東グループ。米国市場への投資が続くなか、今後も二拠点のシナジーを活かした事業展開に目が離せないと言えるだろう。

(左)堀 英智氏 2024年に社長に就任した財務分野のスペシャリスト。「社員それぞれがやりたいことをやり、得意分野を活かしてもらいたい」と話す。 (右) 稲葉恒介氏 タイトウトレーディングで設計を担う。同社製造部門で働いていたが、前職の経験を買われ設計部門に移動。「変化のある環境で試行錯誤を繰り返せる、また、様々な経験ができる環境は気に入っている」。

■株式会社タイトウトレーディング

〒525-0043 滋賀県草津市馬場町1200番地20

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