大型制御盤搭載トランスファープレス
韓国での認証取得とUL規格適合まで
愛知県
旭精機工業株式会社
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今回紹介するのは、特大サイズのトランスが搭載された大型制御盤のUL規格適合に向けたプロジェクト。約半年間で複数台を納入するスピード感あるスケジュールのなか、韓国の認証機関による事前評価も実施した。その間どのような壁があり、それをどう乗り越えていったのか。関係者に話を聞いた。
高精度な深絞りが生み出す唯一無二の製品
愛知県尾張旭市に本社を置く旭精機工業株式会社は、1953年設立のメーカー。ばね加工とプレス加工を柱に高い技術力を有し、特にプレス加工については、径に対し長く細く成型する高精度な「深絞り加工」を得意としている。
プレス加工では加工品製造に加えプレス機械そのものの製造も手がける同社。量産加工技術にも優れ、専用トランスファープレスについては、国内最大規模のシェアを誇る。それを支えるのは、機械装置の製作だけでなく、自社内で金型の設計・製造・調整から、最適な製品加工に向けた設計施工まで一貫して実施できる体制だ。一般的にトランスファープレスの立ち上げは難しいとされるが、同社は「お客様がすぐに製造をスタートできるところまでセットできる」(取締役機械事業部副長 石村 淳氏)高度な技術対応も可能なのだ。
これらの強みもあり、同社のトランスファープレスは産業の中核を担う装置として認知され続けてきた。1980年代には電池ケース、90年代に入ると充電池ケースや携帯電話等で使われる角形の充電池ケースの製造現場で活躍。さらに近年では、車載用の製造装置としても注目されている。
初の試みだった本格的なUL規格適合
同社の主たる顧客は、国内と東アジア各地のメーカー。それら企業のニーズを受け数年前までは中国に所在する工場向けの機械装置の輸出が多かったが、ここにきて風向きが変わってきたという。国際情勢の変化の影響を受け、北米で新設される工場で稼働するトランスファープレスの引き合いが増えてきているのだ。
一見するとそのスケジュール感に難しさを感じそうだが、第二技術開発部長の杉山 寛氏は「今は引き合いが多く少々お時間を頂戴しておりますが、本来は1年程度でお客様のご要望にお応えするのが理想」とし、「今回難航したのは、規格への適合でした」と振り返る。
実は同社でUL規格の本格的な適合を行うのは初の試み。「発注元から話を受けた時、まず頭に浮かんだのが『これは難しいぞ…』でした。今までのケースよりさらに高い知見やノウハウが不可欠だったのです」(杉山氏)。
「情報もない」「情報があっても判断が難しい」
プロジェクト開始当時の現場について第二技術開発部主任の鳥居佳弘氏に聞くと、「特に困ったのは、情報がないことです。それに尽きます」との答えが返ってきた。
「例えばケーブルひとつとっても、今まで扱ったことがないものを使うことになります。なかには海外製の部品もあり、そのドキュメントを吟味しながら製造現場でどう使っていくかなど一つずつコンセンサスを得ていく必要もありました」(鳥居氏)。
今回製造したトランスファープレスをはじめ、同社が作る機械装置はベースとなるプレス機をもとにカスタマイズした一品物がほとんど。「お客様のニーズにあわせ、最適な設備を開発し提供してきた」(石村氏)こともあり、現場では顧客の仕様に沿うことを前提としつつ、新たに規格に適合するための部品を選定・使用していくことになったのだ。
「さらに情報にたどり着けたとしても、今まで使ってきたものと同等品であるかどうかの判断がつかなかったり…、部品の入手自体の困難さもありました」(鳥居氏)。
自社だけの対応に限界を感じたことから、同社は協業を模索する。その結果プロジェクト開始から数カ月後、既に参画していた部品メーカーからの紹介で三笠精機もメンバーに加わることとなった。
「三笠精機のサポートは、現場の大きな助けとなりました」と話す鳥居氏。それでも苦労した点として、発注元企業の要請により実施した韓国の認証機関による事前審査をあげる。「特に円滑な認証取得に向けたコミュニケーションに難しさがあった」(杉山氏)。三笠精機の技術営業部部長 海外規格スペシャリストUL508A-MTR 第二種電気工事士 セーフティーアセッサの橋本佳紀も「この点に関しては、私たちも正解を模索しつつ手探りで進めざるを得なかった」と振り返る。
一方でUL規格適合については、「過去の知見を持つ人の力があれば、比較的短い期間で認証適合をクリアできる」(杉山氏)と指摘する。UL規格は最後に審査を行う審査官の判断がすべて。その場で「問題あり」となったら修正をせざるを得ない。なるべく手戻りを減らすために必要なのは暗黙知で、それは場数をこなし社内でノウハウを貯めていくことでしか対応できないとも言える。
深絞り加工技術をニーズに合わせていく
取材をした2024年9月時点では、後続する制御盤の納入に加え装置の組み立てが佳境に入っていたが、大きな山場は越えたという。石村氏は自社の歩みについて「産業界の要請にあわせ、常にノウハウや技術を取り入れてきたのが当社の歴史であり強み」と話す。
全世界的なEV需要増加と北米シフトから市場も変化しており、同社は「今後もUL規格適合の依頼は増えていく」(杉山氏)と考えている。鳥居氏は今後について、「これからもぜひご協力頂きたいとの思いはありつつも、いつまでも『おんぶにだっこ』ではなく、自社でできることを増やしながら対応していきたい」と話す。
「国内では大きなシェアを持つ当社ですが、海外に目を向けると競合先は多い」とも語る石村氏。いわゆる一般的な電池である一次電池のケースからEV用電池向けケースまで、社会の変化に合わせ新しい技術やノウハウを吸収しアジャストしながら歩んできた旭精機工業。石村氏は深絞り加工とトランスファープレスという独自の技術力を活かしつつも、「技術をニーズに合わせながら、お客様の力になっていきたい」と締めくくった。
■旭精機工業株式会社
〒488-8655 愛知県尾張旭市旭前町新田洞5050-1
精密金属加工品・小口径銃弾・プレス機械・ばね機械・自動機/専用機等の製造及び販売
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